
○○税務署長 殿
**町****番地 ○○○○○氏
土地(低額譲受け)の時価について (意見書)
上記代理人 税理士法人アグス
代表社員 千 葉 寛 樹
裁判例等によると、言い回しに若干の違いがあるが、概ね以下の様に、同義で定義している。
1「財産の譲渡が相続税法7条の規定にいう「著しく低い価額」による譲渡に該当するかどうかは、当該財産の譲渡の事情、当該財産の譲渡価額と相続税評価額との対比、同種の財産の市場価額の動向等を勘案して社会通念に照らして判断すべきものと解される。」
※東京地裁平成7年(行ウ)第238号贈与税決定処分等取消請求事件(棄却)(原告控訴)平成9年11月28日判決 【税務訴訟資料第229号898頁】
2「相続税法7条及び22条にいう時価とは、当核財産の取得の時において、その財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認 められる価額、すなわち、当該財産の客観的交換価値をいうものと解される。」
※東京地方裁判所平成9年(行ウ)第193号贈与税決定処分等取消請求(棄却)
(確定)平成13年2月15日判決【税務訴訟資料 第250号 順号8836】
3「贈与税は、贈与によって財産を取得する者を納税義務者として贈与税を課しており(相続税法1条の2)、贈与という財産の移転の機会をとらえて、財産の取得という事実に担税力を認めて課するものであって、個々の土地の収益性の有無に限らずその取得者に課するものであるから、相続税法7条及び22条にいう「時価」とは、不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる取引価格、すなわち、客観的な交換価値をいうものと解すべきである。」
※さいたま地裁平成13年(行ウ)第46号贈与税決定処分等取消請求事件(一部取消し)(確定) 平成17年1月12日判決
上記各号からは共通的に、財産の現況に応じ、譲渡の事情、市場価額の動向等を勘案して社会通念に照らして総合的に判断すべきものが客観的な交換価値と言える。
このことは、以下のごとく国税不服審判所裁決でも同様の趣旨が述べられている。
【平成15年6月19日裁決】
「相続税法第7条にいう「著しく低い価額の対価」に該当するか否かは、当該財産の譲受けの事情、当該財産の譲受けの対価の額、当該財産の市場価額及び当該財産の相続税評価額などを総合勘案して社会通念に従い判断すべきものと解するのが相当である。」
また、相続税通達によると、
【相個通】負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について
平成元年3月29日
直 評 5
直 資 2-204
改正 平成3年12月18日課資2-49(例規)
1 土地及び土地の上に存する権利(以下「土地等」という。)並びに家屋及びその附属設備又は構築物(以下「家屋等」という。)のうち、負担付贈与又は個人間の対価を伴う取引により取得したものの価額は、当該取得時における通常の取引価額に相当する金額によつて評価する。
ただし、贈与者又は譲渡者が取得又は新築した当該土地等又は当該家屋等に係る取得額が当該課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該取得価額に相当する金額によつて評価することができる。
(注)略
2 1の対価を伴う取引による土地等又は家屋等の取得が相続税法第7条に規定する「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」又は相続税法第9条に規定する「著しく低い価額の対価で利益を受けた場合」に当たるかどうかは、個々の取引について取引の事情、取引当事者間の関係等を総合勘案し、実質的に贈与を受けたと認められる金額があるかどうかにより判定するのであるから留意する。
*アンダーライン筆者
とあり、時価に関する基本的な意義付けは判例等と差はない。
そして、時価の評価の面においては、平成3年1月に閣議決定された「総合土地政策推進要綱」では、「固定資産税評価について、平成6年度以降の評価替えにおいて、土地基本法第16条の規定の趣旨を踏まえ、相続税評価との均衡にも配慮しつつ、速やかに地価公示価格の一定の割合を目標に、その均衡化・適正化を推進する」とされた。
現在はこれに従って、固定資産税については地価公示価格の7割を目途に、相続税については地価公示価格の8割程度での評価が行われている。
(参考)
土地基本法
(平成元年十二月二十二日法律第八十四号)
(公的土地評価の適正化等)
第十六条 国は、適正な地価の形成及び課税の適正化に資するため、土地の正常な価格を公示するとともに、公的土地評価について相互の均衡と適正化が図られるように努めるものとする。
ところで、上記土地基本法の趣旨から、平成4年度税制超過会答申を踏まえ、「固定資産評価基準の取扱いについて」の依命通達の一部改正(抄)が行われ、「宅地の評価にあたっては、地価公示法(昭和44年法律第49号)による地価公示価格、国土利用計画法施行令(昭和49年政令第387号)による都道府県地価調査価格及び不動産鑑定士又は不動産鑑定士補による鑑定評価から求められた価格(以下「鑑定評価価格」という。)を活用することとし、これらの価格の一定割合(当分の間この割合を7割程度とする。)を目途とすること。」とされた経緯があり、直後の基準年度である平成6年評価から適用されている。
しかしながら、他税目の課税標準算定に関して何ら法的拘束力を持たず、またその実定法上の定めはない。
そして、相続税路線価については特に条文上の公定力のある明文規定がないまま、通達発遣にも至らない資産評価企画官情報により平成4年から公示価格の8割程度を目途に価額が付されているのが現状である。
この経緯にかかる事情は(第123回国会土地問題等に関する特別委員会 第5号
平成四年四月十七日)でも述べられている。
上記経緯は、いわゆるバブル時代に実勢価格と個別税法通達等における価額差が著しく乖離し、そのことを利用した租税回避的行為が頻発したことが大きな要因となっていることは明白であるが、現在では実勢価格、公示価格ともに平成4年当時と比べ大幅な下落をしていることから、昨今は、路線価は言うまでもなく、固定資産税評価額そのもの、あるいはそれ以下の金額での第三者売買取引(実勢価格)が現実に数多く見られるのが実態である。
この点につき、先に引用した平成15年6月19日国税不服審判所裁決では、次の様に述べている。
「原処分庁は、本件通達は、何ら経済状況等その時代背景に左右されるという性質のものではないから、平成12年分の贈与税の課税においても当然に適用がある旨主張する。
しかしながら、本件通達の趣旨は、土地等及び家屋等の不動産の通常の取引価額と相続税評価額との開きに着目しての贈与税の負担回避行為に対して、税負担の公平を図る ため、負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る価額は、評価基本通達にかかわらず、通常の取引価額に相当する金額によって評価することとしたものであり、本件通達の適用に当たっては、本件通達が制定された当時における地価の動向及び路線価の時価に対する水準を考慮しなければならない。
すなわち、本件通達の制定された当時は、路線価の時価に対する水準が公示価格の7 0%相当を目途としていたにもかかわらず、その後の地価の急騰に伴い、路線価がその適用年分の終わりに時価の20%から30%程度にすぎず、路線価に相当する金額を対価とした負担付贈与や低額譲受けという形式を採ることによる実質的な財産の移転が行われるようになり、これを放置することは、課税の公平の見地からみて弊害があることから、当該財産の価額は、評価基本通達にかかわらず、通常の取引価額に相当する金額によって評価することとする取扱いが定められたものである。
ところで、本件の場合、本件不動産の譲受けが行われた平成12年の課説年分においては、路線価は公示価格の80%を目途に評定されており、かつ、本件土地の近隣の基準地価格は、上記イの(ホ)のとおり下落傾向にあったものであるから、本件不動産の相続税評価額は、課税庁が課税実務の公平と効率のために時価の範囲内と認める水準に留まるものと推認される。」 *アンダーライン筆者
勿論本裁決が扱った事案と本件とは事情を異にしているが、昨今の地価下落、特に都市部以外での一層の下落の進行に伴い、時価の範囲としての相続税評価額を認容する判断をしている点は注目すべき裁決である。
単純に路線価を8割で、固定資産税評価額を7割で割り返して時価と称する環境ではない時代であるからこその判断であり、一般国民感情、取引実態とも合致するものであろう。
特に負担調整措置の進行とともに評価額が数次の基準年度を経ながらも相当に上昇した固定資産税評価額については、後述する最高裁の判断もあるように、各地でその評価の妥当性について訴訟の対象件数が増加していることは、固定資産評価の安定性に不安が生じている証拠でもある。
そもそも相続税法における財産評価の概念は、古くは昭和26年当時の富裕税及び相続税における財産評価に対する考え方が根底にある。
すなわち、富裕税の時価については、(以下、引用)「~省略~(3)価額は、財産の所有者又は権利者が課税時期において、売り主の立場にたった場合に客観的に評量される価額であり、その価額が取引の実現を装うされる者でなければならないわけである。~省略~相続税においても富裕税と同じく、財産の評価については、若干の場合を除いては、すべて財産取得の時価によるという包括規定に委任されている。時価の解釈については、富裕税の場合と同様であって、再びここに述べる必要はない~省略」
(小栗銀三編「改正国税詳報」大蔵財務協会・昭和26年7月(大蔵省主税局長・平田敬一郎ほか執筆 317,318,353,354ページ゙))「引用」税務大学校論叢 税務大学校 研究部教授 浅井光政 「租税法上の時価を巡る諸問題」56ページ
とされ、同教授は同論叢56ページ゙で、「相続税における時価は、実現可能価額(売却価額・処分価額)としての『正味実現可能価額』であると解される」としている。
つまり、買い主の立場による「再調達価額」ではなく、売り主の立場に立った場合の「正味実現価額」が時価になるとしているのだから、売買実例、実勢価額として売れるかどうか、の判断による価額が相続税の時価であり、この意味からも、到底売りが成立し得ないような価額による評価額は、本件においても妥当し得ないのである。
平成15年6月26日最高裁判所第一小法廷判決(平成10(行ヒ)41)は、
「適正な時価とは、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値をいうと解される。したがって、土地課税台帳等に登録された価格が賦課期日における当該土地の客観的な交換価値を上回れば、当該価格の決定は違法となる。」と判示している。
この最高裁判決は、実勢価格と評価額と間で、評価額が交換価値を上回る程の差が合った場合の違法性を明確にした判例であり、検証はしていないものの実際に全国各地において存在している可能性が無いとはいえない。
つまり、客観的交換価値=正味実現価額=実勢価額=時価という定義において、固定資産税評価額が、取引時点での時価を超える様な水準であれば当該評価額は違法となるのである。
そこで、本件該当地における、公示価格、固定資産税評価額、近隣売買実例等から、相続税法における時価の範囲について、以下検証する。
2.該当地時価の算定について
(1)公示価格との関連
本件物件は住宅地であり、住宅地にかかる直近3年間の公示地点及び価格は以下の通りである。
| 2003年 | (公示価格) | (固資評価) | (割 合) |
| ***町*****-***** | 16 ,600円/㎡ | 12,530円/㎡ | 75.4% |
| ***町****-**** | 11,500円/㎡ | 8,050円/㎡ | 70.0% |
| 2004年 | |||
| ***町******-***** | 16,200円/㎡ | 12,530円/㎡ | 77.3% |
| ***町****-**** | 11,100円/㎡ | 8,050円/㎡ | 72.5% |
| 2005年 | |||
| ***町******-**** | 19,000円/㎡ | 14,700円/㎡ | 77.3% |
| ***町****-**** | 11,100円/㎡ | 8,050円/㎡ | 72.5% |
上記公示価格基準地のう***町****-****は、JR駅は**駅裏であり、*駅までは2㎞と遠隔地であり、***町****-****の*駅まで280㍍、とは全く条件が異なるので比較対象地としては不適当である。
また、***町****-****は*駅まで、1.3㎞であるが、**駅は最寄り駅ではなく、本件該当地と同地区である。
2005年は***町****-****が公示地点には入っていないが、2003年、2004年と公示価格は下落しており(下落率2.4%)、同様の下落傾向ならば、15,800円/㎡前後と予測される。その場合の固定資産税評価額との割合は79.3%となり、固定資産税の基準年度を控えて、公示価格のほぼ8割水準に達していると見込まれる。
仮に下落無しとしても2004年で77.3%の割合であり、この割合は、新たに2005年に採用された***町****-****の同割合が77.3%と同水準になっていることから、2004年当時において、既に固定資産税評価額は公示価格の7割という目安から1割以上も上方乖離している。
この乖離は、市街区における路線価が8割程度という取り扱いから見ると無視し得ない水準であり、固定資産税評価額が最早、時価算定の基準たり得ない水準にあることを示している。
※本件該当地の状況は以下の通りである。
| (本件該当地) | (公示なし) | (固資評価額) |
| ***町****-****(264.46㎡) | - | 19,061円/㎡ |
| (62,901円/坪) | ||
| ***町****-****(158.67㎡) | - | 11,616円/㎡ |
| (38,332円/坪) |
上記は固定資産税評価額の水準が極めて異なるが、いわゆる正面路線に面しているか否かでの違いである。
ところで、前記で検証した**町の公示地点の固定資産税評価額と公示価格との比準を援用すると、1.下落が進んでいる場合の79.3% 、2.下落無しの場合の77.3%、それぞれ次の価額が公示価格比準価額となる。
1. 24,037円/㎡ 2. 24,658円/㎡
14,600円/㎡ 15,027円/㎡
これは、2005年の公示地点であり、本件該当地より*駅に極めて近い***町****-****の公示価格19,000円/㎡と比べて相当な高水準であり、俄に採用しがたい評価額といえる。
**町は上記の公示価格水準で明かな様に、下落傾向で、しかもせいぜいが16千円台の公示価格なのである。
上記から、2005年においては固定資産税評価額が時価算定の根拠としては不適当な水準にあるという状況的証明であろうと感ずるが、今時点で異議申立て等の時間的余裕はなく、また、固定資産税評価額以下の金額を贈与税の課税標準にするということの、法的、理論的困難性は経験則的に十分理解しているところである。
次に、売買実例を入手しているので、その取引価額と各評価額、実勢価額の動向などを
検証してみることとする。
(2)売買実例=実勢価額との関連
近隣での売買実例は以下の通りである。
1. 平成15/6/23
**町***番地**の内 264.43㎡ 4,000,000円 売買単価15,126円/㎡ (49,918円/坪)
2. 平成13/12/5
**町***番*** 406㎡ 4,913,600円 売買単価 12,102円/㎡
(281番地9から分筆) (39,936円/坪)
1は極めて本件該当地に隣接し、2は国道○号線に近く、○○号線にも近接した交通の便の良い場所である。
売買金額から判断して、売買当事者の認識は概ね、1で坪5万円、2で坪4万円での取引であったことが推測される。
また、不動産業者、****税理士の精通者意見として、本件該当地を含む**町一帯を市街地と住宅地とに大きく区分して、町の中心部に近い市街地なら兎も角、住宅地としての広範囲な部分は、実際の売買取引として坪当たり、5万円前後で,高くて6万円がやっとの相場であり、それ以上では、余程の買い急ぎ等の事情が無い限り、まず売買が成立しないとのことである。
本件該当地は、下り坂の始点にあり、土地区画整理もされておらず、向いに寺院があることから新規物件、商業店出店などは当分の間は無理であり、住宅地としての利便性は近隣に比して現状、将来性においても特に高いという状況にはない。
坪5,6万円というと、平米で15,000円から18,000円前後が実勢価額となり、本件該当地の固定資産税評価額(185-8)19,061円を下回っている。
このことは、1.(3)で既述したように、固定資産税評価の妥当性にも疑問を持たざるを得ない状況にあることを示している。
1.では時価とは、「財産の現況に応じ、譲渡の事情、市場価額の動向等を勘案して社会通念に照らして総合的に判断すべきものが客観的な交換価値」と定義されるものであった。
もとより、通達の趣旨からは、売買に至った当事者の経緯などとは無関係に、要するに時価より低額での譲受けがあった事実だけで課税しようとするものであろうが、国民の財産権保護をうたう憲法29条、同84条の租税法律主義の見地からは、通達に拘束されることなく、実質的に判例等で述べられている、譲渡の事情、市場価額の動向等を総合勘案する権利があると言える。
本件該当地は、譲受け者の○○○○氏が昭和61年4月から祖父を亡くし一人暮らしの祖母の面倒をみるために同居し、平成3年頃に祖母が亡くなって以降も居住を続けていたものである。当時の土地名義人は同人の姉であり、年に一度程度の訪問であり、固定資産税は賦課該当額を毎年姉へ送金し、負担していたものである。
譲受けの数年前より、土地所有権者として姉の高圧的態度が顕著になってきていたこと、夫の物故などを踏まえ、実質的に維持管理、税負担、居住している自分の名義物にしようと、姉との協議、金額提示によって本件取引が行われたものである。
売買の市場動向については素人でもあり特に意識無く、出来るだけ安く、という当然の意思が働いた結果の金額であり、居住権の認識も含まれていたと推測される。
法律論的には、使用貸借であって土地の評価は更地評価であるが、個人の内面的意思としては、特段の税的知識のないまま、身内同士、長年の親の面倒、不動産の維持管理、税金負担等を考慮して○○○万円という売買価額で取得したものであるから、
租税回避は勿論、税の発生そのものに関する意識、知識は皆無であった。
仮に、単純な贈与にすると相続税評価額での贈与税を負担するのみであり、基礎控除後の税額は、単純な割返し計算による時価算定をされる場合の今回の売買取引の場合より低額である。
その意味からも、課税公平の原則を謳った平成4年通達は最早役割を終え、却って財産出費による購入の方が税金が高いという、一般の納税者にとって不可解な、新たな課税の不公平を生み出しているとも言える。
結果として本件は相続税法における低額譲受けによる贈与に該当することになるが、その場合の時価の根拠に付いては縷々述べてきたとおりであり、単純に固定資産税の評価額を割り返す、という時価算定の手法は本件では妥当しない。
実際の売買実例、固定資産税評価の面を重視すると、納税者の経済的安定性保護の面からはいささか問題なし、とはしないが、既に申告期限を徒過しており固定資産税評価の妥当性に異議申立て等を行う時間的余裕もなく、時価=正味実現可能価額の定義範囲内の価額として、引用した平成15年裁決でも認めているように、相続税評価額(本件該当地は倍率方式適用地である)が、本件の場合、最も妥当性があると思慮するものである。
以 上